湖面に映ったお城の話

生まれ変わった日

湖面に映ったお城の話

出演

  • カリアンドラ
  • 黒蝶
  • 白蝶
  • アガパンサス
  • ローゼル
  • アガウェ
  • リリー
  • ラグラス
  • ラナケリ

ようやく孵った黒蝶が、窮屈にたたまれてある羽を思いっきり広げたところ。長い眠りにつく前と比べて、やけに眩しく感じて独り言。
「明るすぎるって」
アガパンサスがクスクス笑った。
孵った途端、文句を言った蝶は初めてだったから。
「何よ?」
怒ったような黒蝶の声に、アガパンサスはぐっと笑いを噛み殺した。
「ああ、別に」
「…こんなに明るかった?」
黒蝶は、尚も眩しそうに辺りを見回している。
「だって、ずっと眠ってたろ?」
「そうだけどさ…」
黒蝶は、羽をゆっくりと動かしている。
ほんとに飛べるのか半信半疑みたいだ。

アガパンサス

カリアンドラ

ふと黒蝶は、ゆっくりと歩いて来たカリアンドラを見上げた。
孵ったら、彼女のようになりたいと思っていたことを思い出して。

カリアンドラの歌声は、広すぎる城の中を静かに響いていく。
周りの空気をひそやかに振動させて。
カリアンドラは、この広すぎる城の、赤い姫だ。
黒蝶のことを笑ったアガパンサスも、カリアンドラを眩しそうに見ている。
カリアンドラが、黒蝶に、微笑みかけた。
「飛んで見せて」と。
黒蝶は、どきどきしながら、もう一度カリアンドラを見上げ、先ほど伸ばし切った羽を感じながら・・・
空へ。

黒蝶の夢がかなった瞬間。
黒蝶は、カリアンドラの目の前で羽をはためかせて見せた。
手を差し出してくれたカリアンドラ。
アガパンサスは、歓声を上げ祝福を送った。
生まれたばかりの蝶が初めて飛んだ瞬間に。

生い茂った木々の間を縫って、赤と白の蝶が飛んできた。
「自由の国へようこそ」
赤蝶が、黒蝶の隣を飛んだ。
チラチラ、チラチラ…
空へ、空へ…
黒蝶の見上げる遠くの空を、白い鳥が翼を広げて、優雅に飛んでいた。
「そりゃあ私たち、鳥みたいに、あんなに高い所は飛べないわよ。でも! 飛べるのよ」
少し悔しそうに、でも、随分誇らしげに白蝶が微笑んだ。

黒蝶